この記事の結論
借地権付きの家は売れます。ただし、借地権が「土地の賃借権」であれば、第三者に売るには原則として地主の承諾が必要です(民法第612条)。承諾料の額は、法律では決まっていません。
売る前に、契約書と登記で「地上権か賃借権か」「借地借家法の前の契約か後の契約か」「定期借地かどうか」「建物の名義」を確認しましょう。そのうえで、地主に買ってもらう、底地と一緒に売るなど、地主にも利点のある売り方から考えます。
地主が承諾しないときは、もう一度地主と話し合う、裁判所に承諾に代わる許可を求める(借地非訟)、借地権を扱う買取業者に売るという3つの出口があります。地主との交渉や手続きを自分でしたくない、早く手放したいという場合は、複数の買取業者に査定を依頼して比べるのが近道です。
「借地権の家は、地主さんの承諾がないと売れませんよ」。親が借地の上に建てた家を相続して不動産会社に相談すると、こう言われることがあります。地主にほとんど会ったことがない、契約書がどこにあるか分からない、承諾料をいくら求められるのか見当もつかない。そんな状態で地主に連絡するのは、気が重いものです。
この記事では、不動産会社で売買仲介や買取に携わってきた立場から、地主に連絡する前に確認しておきたい「自分の借地権の中身」、承諾と承諾料の考え方、承諾が得られる場合の売り方、そして地主が承諾しないときの3つの出口を、順番に比べながら解説します。

まず確認:あなたの借地権はどの種類?売り方が変わる4つのポイント

同じ「借地」でも、権利の種類、契約した時期、契約の型、建物の名義によって、地主の承諾が必要かどうかや、取れる出口が変わります。実務の感覚でいえば、ここを確かめないまま地主に「売りたい」と切り出すと、話がかみ合わなくなることがあります。地主に連絡する前に、手元の書類で次の4つを確認しておきましょう。
借地権とは:土地は地主のもの、建物は自分のもの
借地権とは、建物を持つことを目的として、他人の土地を使う権利のことです。法律では「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定められています(借地借家法第2条第1号)。
土地(借地権が付いた状態の土地を「底地」といいます)の持ち主は地主で、建物の持ち主は借地人です。借地人は地主に地代を払って土地を使います。つまり、借地の家を「売る」ときに売るのは、土地そのものではなく「建物と、その下の土地を使う権利(借地権)」です。ここが、ふつうの土地付きの家との一番大きな違いです。

「地上権」か「賃借権」か:承諾のルールが違う
借地権には「地上権」と「土地の賃借権」の2種類があります(借地借家法第2条第1号)。この記事で説明する「地主の承諾が必要」というルールは、賃借権についての定めです。民法は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡せない、としています(民法第612条第1項)。また、後で説明する裁判所の許可の手続きも、対象は「土地の賃借権」の譲渡です(借地借家法第19条)。
契約書の表題や条項、土地の登記事項証明書(権利部の乙区に地上権や賃借権の登記があるか)を見て、どちらに当たるかを確認してください。地上権であれば賃借権とは扱いが異なるため、売り方は弁護士や司法書士などの専門家に確認するのが確実です。なお、土地に借地権の登記がなくても、借地上の建物を借地人の名義で登記していれば、借地権を第三者に主張できます(借地借家法第10条第1項)。
借地借家法の前の契約か、後の契約か
今の借地借家法が施行される前に設定された借地権は、契約の更新については、以前の法律(旧借地法)のルールが引き続き使われます(借地借家法 附則第6条)。借地借家法は1992年(平成4年)8月に施行されました(国土交通省「平成14年度 国土交通白書」)。親の代から続いている借地では、借地権がそれより前に設定されている場合もあるため、契約書の日付や最初に土地を借りた時期を確かめておきましょう。
借地借家法のもとで結ばれた普通の借地権は、存続期間が30年(契約でこれより長く定めた場合はその期間)、最初の更新後は20年、その後の更新後は10年が原則です(借地借家法第3条・第4条)。旧借地法の契約では期間や更新の扱いが異なるため、残りの期間がどれくらいあるのかは、契約書で確認する必要があります。実務では、買い手や買取業者は、旧法の契約か新法の契約か、残りの期間はどれくらいかを、価格を考えるうえで確認するのが一般的です。
普通借地か、定期借地か
借地には、更新がある普通の借地権のほかに、「定期借地権」があります。たとえば一般の定期借地権は、存続期間を50年以上とし、契約の更新や建物の築造による期間の延長がなく、期間が満了しても地主に建物の買取りを求めない、という特約を付けるもので、この特約は公正証書などの書面でしなければなりません(借地借家法第22条)。
定期借地権では期間が来たら土地を返すことが前提になるため、残りの期間が短いほど、買い手は見つかりにくくなります。契約書に「定期借地権」「更新しない」といった記載や、公正証書で契約した記録があるかを確認してください。
建物の名義:亡くなった親の名義のままなら、まず相続登記
先ほどのとおり、借地権を第三者に主張できる根拠の一つは、借地上の建物の登記です(借地借家法第10条第1項)。建物が亡くなった親の名義のままなら、売る前に相続登記が必要です。2024年4月1日から相続登記は義務になっており、2024年4月1日より前に相続した不動産でまだ登記していない場合は、2027年3月31日までが期限です(法務省「相続登記の申請義務化」)。詳しくは、後の「相続した借地の家:売る前にやっておくこと」で説明します。
借地権を売るには地主の承諾が必要:承諾料の考え方
借地権が土地の賃借権であれば、建物と一緒に借地権を第三者に売る(譲り渡す)には、原則として地主の承諾が必要です(民法第612条第1項)。承諾の見返りとして、地主から「承諾料」や「名義書換料」と呼ばれるお金を求められることがあります。
ただ、「承諾が必要」と聞いて、そこで売るのをあきらめる必要はありません。承諾が得られそうなら次の章の売り方を、得られそうにないなら、その次の章の「3つの出口」を見てください。
承諾なしで売るとどうなる?
賃借人が地主の承諾を得ずに賃借権を譲り渡し、第三者に土地を使わせた場合、地主は契約を解除できると定められています(民法第612条第2項)。契約を解除されれば、買った人は土地を使えなくなり、売った側も責任を問われかねません。地主に黙って売ることは絶対に避けてください。
買取業者に売る場合も、このルールは変わりません。業者が買主になっても、借地権の譲渡には地主の承諾か、次の章で説明する裁判所の許可が必要です。
承諾料(名義書換料)とは:法律で額は決まっていない
承諾料は、地主が借地権の譲渡を承諾する見返りに、借地人が地主に払うお金です。民法や借地借家法には、承諾料をいくら払うかを定めた規定はありません。額は、地主と借地人の話し合いで決まります。
一方、地主が承諾しないときに裁判所が地主の承諾に代わる許可を出す場合は、当事者間の利益の衡平を図るため必要があれば、その許可を「財産上の給付」に係らしめる(お金の支払いを条件にする)ことができます(借地借家法第19条第1項)。東京地方裁判所の案内でも、借地非訟の手続きで裁判所が借地人に支払を命じる金銭(「名義変更料」などと呼ばれます)について説明されています(東京地方裁判所「借地非訟事件手続の流れ」)。
ネットでは「承諾料は借地権価格の◯割」といった数字を見かけますが、実務の感覚でいえば、承諾料は、地主の考え方、地代の水準、これまでの経緯、買い手が誰かなどによって話し合いで決まるもので、「この割合なら妥当」と一律には言えません。提示された額が妥当か判断に迷ったら、借地権を扱う業者や弁護士に相談しましょう。
このほか、借地では、建て替えるときの「建替え承諾料」や、契約を更新するときの「更新料」が話題になることがあります。払うかどうかや額は、契約の内容と話し合いしだいです。契約で増改築が制限されている場合に、増改築について地主の承諾が得られないときは、裁判所が承諾に代わる許可を出す手続きもあります(借地借家法第17条第2項)。
相続しただけなら承諾は不要
相続人は、相続が始まった時から、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます(民法第896条)。借地権も、法律上当然に相続人に引き継がれます。これに対して、地主の承諾が必要とされているのは、賃借人が賃借権を「譲り渡す」場合です(民法第612条第1項)。このため、相続で借地権を引き継ぐことは譲渡には当たらず、地主の承諾は要らないと一般に解されています。兄弟で話し合って(遺産分割で)1人が借地権を引き継ぐ場合も、遺産分割は相続が始まった時にさかのぼって効力を生じる(民法第909条)ため、同じように考えられています。
地主から名義書換料を求められた場合でも、払う義務があるかは契約の内容や事情によるため、すぐに払わず、弁護士などの専門家に確認してください。また、地代の振込名義が変わることなどは、地主に連絡しておきましょう。
ただし、相続人ではない人に、遺言で特定の財産として借地権を譲る場合(特定遺贈)は、遺言をした人の意思で財産を処分するもの(民法第964条)なので、賃借権の譲渡として地主の承諾が必要になると考えられています。財産の全部や割合を譲る「包括遺贈」は、受け取る人が相続人と同じ権利義務を持つ(民法第990条)ため、扱いが分かれます。遺言で借地権を譲る・譲られる予定があるときは、弁護士に確認してください。
兄弟で相続して借地権と建物が共有になっている場合、自分の持分だけを第三者に売ることも、地主との関係では借地権の譲渡(または転貸)の問題になります。最高裁は、借地上の建物を家族との共有にしたり、共有持分が家族に移ったりした事案で、これを無断の転貸に当たるとしたうえで、事情を考えて契約の解除は認めませんでした(最高裁判所 平成21年11月27日判決)。持分を売るときも、地主の承諾が必要になると考えて準備してください。共有の不動産の売り方は「共有持分だけを売る方法」も参考にしてください。
地主の承諾が得られる場合の売り方:売却先の比べ方

地主の承諾が得られる、または得られそうな場合、売り先は大きく4つに分かれます。どれが合うかは、地主との関係や地主の意向で大きく変わります。
| 売り方 | 向いているケース | 価格の傾向 | 手間・時間 | 地主との話し合い |
|---|---|---|---|---|
| 地主に借地権を買い取ってもらう | 地主に土地を取り戻したい意向と資金がある | 話し合いしだい | 相手が地主だけなので、条件が合えば進めやすい | 価格の交渉が中心 |
| 底地と一緒に第三者に売る | 地主も土地を手放したいと考えている | ふつうの土地付きの家として売り出せるため、買い手が広がる可能性がある | 地主と借地人の双方の合意と、代金の分け方の話し合いが必要 | 売り方と代金の分け方の合意が必要 |
| 仲介業者(不動産会社)に依頼して、借地権付き建物として売る | 立地がよく、建物が使える。地主が譲渡に前向き | 買い手が見つかれば、業者に売るより高くなる可能性がある | 買い手探しと、地主の承諾の段取りに時間がかかることがある | 買い手が決まった段階で承諾を得る |
| 買取業者に売る | 早く手放したい、建物の傷みが大きい、交渉を任せたい | 一般の買い手に売れる価格より低くなりやすい。業者によって差が出る | 条件が合えば比較的短い | 業者によって進め方が違うため、事前に確認 |
表は横にスクロールできます。価格・手間は一般的な傾向で、物件や地主との関係によって大きく変わります。
地主に借地権を買い取ってもらう
地主にとって、借地権を買い戻せば、土地が誰にも貸していない完全な所有権の土地に戻ります。自分で使う、建て替えて貸す、更地として売るなど、選択肢が広がるため、地主は買い手候補の一つになり得ます。
地主に売る利点は、承諾料の話がそもそも不要になり、交渉の相手が一人で済むことです。一方で、地主にその気や資金がなければ成り立たず、価格も話し合いで決まります。地主に「買い取ってもらえないか」と打診するときは、先に買取業者などの査定を取って、借地権にどの程度の値段が付くのかを把握しておくと、話がしやすくなります。
底地と一緒に売る(地主と協力して第三者に売る)
借地権と底地は、それぞれ単独では買い手が限られやすい権利です。借地権だけを買う人は地代を払い続ける必要があり、底地だけを買う人は土地を自由に使えません。そこで、地主と借地人が協力して、借地権と底地をまとめて第三者に売る方法があります。
まとめて売れば、買い手から見ればふつうの土地付きの家(または更地)になるため、別々に売るより買い手が広がる可能性があります。ただし、地主と借地人の双方の合意が必要で、売れた代金をどう分けるかも話し合いで決めます。分け方を定めた法律の規定はないため、双方が納得できる根拠(査定など)を用意することが大切です。
似た方法として、借地の一部と底地の一部を交換し、地主と借地人がそれぞれ完全な所有権の土地を持つ方法もあります。土地の形や広さによって向き不向きがあり、税金の特例が使えるかどうかも条件しだいのため、税務署や税理士に確認してください。

仲介業者に依頼して、借地権付き建物として売る
地主の承諾が得られる見込みがあれば、仲介業者(不動産会社)に依頼して、借地権付きの建物として一般の買い手に売る道もあります。立地がよく、建物がそのまま使える家なら、検討する価値があります。
ただ、ふつうの土地付きの家より売りにくくなりやすい理由もあります。買い手は土地を持てず、地代を払い続ける必要があり、将来の更新や建て替えのときにも地主との話し合いが必要になります。また、買い手が住宅ローンを使う場合、金融機関から地主の承諾書などを求められることがあり、ローンが使えるかどうかは金融機関の判断になります。こうした点から、買い手が限られる場合があります。
実務の段取りとしては、買い手が決まった段階で、その買い手への譲渡について地主の承諾を得ます。売買契約では、地主の承諾が得られなかったときの扱い(契約を白紙に戻すかなど)を定めておくことがあります。契約の前に、仲介業者に条項を確認してください。
地主が承諾しないときの3つの出口
地主が承諾してくれない、高い承諾料を求められた、そもそも話し合いができない。そんなときでも、出口がなくなるわけではありません。取れる道は、大きく次の3つです。
| 出口 | 向いている人 | 手間・費用 | 価格の傾向 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ①地主ともう一度話し合う(地主への売却・底地と一緒に売る) | 地主と連絡が取れ、話し合いの余地がある | 話し合いの手間。間に専門家を入れる場合はその費用 | 話し合いしだい | 地主にとっての利点を示せるかが鍵 |
| ②裁判所に承諾に代わる許可を求める(借地非訟) | 買い手が決まっていて、地主が理由なく承諾しない | 申立ての準備や手続きに時間がかかる。弁護士に依頼する場合はその費用 | 裁判所が承諾料に当たる支払いを命じることがある | 地主が自分で買い取ると申し立てると、地主に売ることになる場合がある |
| ③借地権を扱う買取業者に売る 交渉したくない・早く手放したい場合 | 地主と直接やり取りしたくない、早く手放したい | 自分でする手間は比較的少ない | 一般の買い手に売れる価格より低くなりやすい。業者によって差が出る | 承諾が得られないときの扱いを契約書で確認 |
表は横にスクロールできます。手間・価格は一般的な傾向で、物件や地主との関係によって大きく変わります。
出口① 地主にとっての利点を示して、もう一度話し合う
地主が承諾しない理由は、地主ごとにさまざまです。一般的には、たとえば次のような心配が背景にあることが考えられます。
- 知らない人に土地を貸すことになるのが不安
- 新しい借地人が地代をきちんと払ってくれるか心配
- いずれは土地を返してもらいたい
理由が「いずれ土地を返してほしい」なら、地主に借地権を買い取ってもらう提案が合うかもしれません。「知らない人は不安」なら、買い手の情報を先に示す、底地と一緒に売って地主も代金を受け取る形にする、といった提案が考えられます。前の章の「地主に借地権を買い取ってもらう」「底地と一緒に売る」を、地主の立場から見て利点がある形で示すことがポイントです。
直接の話し合いが難しい場合は、地主との交渉や手続きの代理を弁護士に依頼する方法があります。仲介業者(不動産会社)は、代理人として地主と交渉する立場ではありません。ただ、実務では、売主・買い手・地主のあいだで条件や提示額を取り次ぎ、合意に向けて調整することはよくあります。法的な代理人として交渉や手続きを任せたいときは、弁護士に依頼します。ただし、どんな提案をしても承諾が得られるとは限りません。話し合いがまとまらなければ、出口②か③に進みます。
出口② 裁判所の「借地非訟」で、承諾に代わる許可をもらう
借地人が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、その第三者が借地権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず地主が承諾しないときは、裁判所は、借地人の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができます(借地借家法第19条第1項)。こうした借地に関する裁判所の手続きを「借地非訟」といい、「土地の賃借権譲渡又は転貸の許可申立事件」はその一つです(東京地方裁判所「借地非訟事件について」)。
押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 譲渡する前に申し立てる:条文は「第三者に譲渡しようとする場合」と定めています。売る相手(買い手の候補)が決まった段階で、売る前に申し立てる手続きです(借地借家法第19条第1項)。
- 裁判所が考えること:裁判所は、借地権の残りの期間、借地に関するこれまでの経過、譲渡を必要とする事情など、一切の事情を考えて判断します(借地借家法第19条第2項)。
- 承諾料に当たる支払い:許可にあたって、借地条件の変更を命じたり、許可を財産上の給付(お金の支払い)に係らしめたりすることがあります(借地借家法第19条第1項)。
- 鑑定委員会の意見:裁判所は、原則として鑑定委員会の意見を聴いて判断します(借地借家法第19条第6項、東京地方裁判所「借地非訟事件手続の流れ」)。
そして、見落とされがちなのが地主の「介入権」です。借地人が許可を申し立てると、地主は、裁判所が定める期間内に「自分が建物と借地権を譲り受ける」と申し立てることができます。この場合、裁判所は相当の対価などを定めて、地主への譲渡を命じることができます(借地借家法第19条第3項)。つまり、裁判所の手続きを使うと、予定していた買い手ではなく、地主に売ることになる場合があるのです。
手続きには時間と手間がかかり、申立書の準備や、地主・裁判所とのやり取りが必要です。東京地方裁判所の案内では、代理人を付ける場合は弁護士に限られるとされています(東京地方裁判所「借地非訟事件手続の流れ」)。申し立てるかどうかは、弁護士に相談して決めましょう。

出口③ 借地権を扱う買取業者に売る
地主との話し合いや裁判所の手続きを自分でしたくない、早く手放したいという場合は、借地権を扱う買取業者に売るのが現実的な選択肢です。
買取業者は、買い取った後に地主と話し合って底地を買い取る、地主に借地権を売る、借地権付きの建物として再販する、必要に応じて裁判所の手続きを使う、といった出口を想定して価格を出します。地主との交渉や手続きの手間とリスクを業者が負う分、提示額は一般の買い手に売れる価格より低くなりやすいのが一般的です。また、業者ごとに地主との交渉の進め方や得意な出口が違うため、提示額にも差が出ます。
注意したいのは、業者に売る場合も、借地権の譲渡には地主の承諾か裁判所の許可が必要な点は変わらないことです(民法第612条)。「地主の承諾がなくても買い取ります」といった説明を受けたら、承諾が得られないときに決済や解約をどう扱うのかを、契約書で必ず確認してください。
なお、3つの出口とは別に、借地借家法には「建物買取請求権」という権利もあります。借地権の期間が満了して契約が更新されないとき、借地人は地主に建物などを時価で買い取るよう求めることができます(借地借家法第13条)。また、借地上の建物を取得した第三者に対して地主が賃借権の譲渡を承諾しないときは、その第三者が地主に建物などを時価で買い取るよう求めることができます(借地借家法第14条)。いずれも使える場面が限られます。また、一般の定期借地権では、期間満了のときの買取請求(借地借家法第13条)をしない特約を付けることができます(借地借家法第22条)。使えるかどうかは弁護士に相談してください。
借地権の売却価格はどう決まる?「借地権割合」が相場ではない理由

「借地権の価格は、更地の価格に借地権割合を掛けたもの」という説明をよく見かけます。ただ、実務の感覚でいえば、借地権の売却価格は「借地権割合」で決まるものではありません。実際の価格は、誰が買うのか(地主か、一般の買い手か、買取業者か)と、買った後にどう使うのかによって変わります。
路線価図の「借地権割合」とは何か
借地権割合は、国税庁が相続税や贈与税の計算のために定めているものです。相続税の評価では、借地権の価額は、その土地を自分で使っている場合の価額(自用地としての価額)に借地権割合を掛けて求めます。借地権割合は、借地事情が似ている地域ごとに定められ、路線価図や評価倍率表に表示されています(国税庁 No.4611)。
つまり、借地権割合は税金を計算するための評価の基準で、売買の相場を示すものではありません。自分の土地の借地権割合を調べておくのはよいことですが、その数字どおりに売れると考えると、業者の提示額との差に戸惑うことになります。
買い手ごとの価格の考え方
借地権の価格は、買い手によって考え方が違います。
- 地主が買う場合:借地権を買い戻すと、土地が完全な所有権に戻ります。その価値を地主がどう見るか、地主の事情や資金しだいで価格が決まります。
- 一般の買い手(住む人)が買う場合:地代や将来の更新・建て替えのときの話し合い、住宅ローンの使いやすさなどを考えるため、ふつうの土地付きの家より買い手が限られやすく、その分が価格に表れます。
- 買取業者が買う場合:「買った後にどうするか(出口)」から逆算します。
買取業者の考え方を言葉の式にすると、次のようになります。
買取価格 ≒ 買った後に売れる(貸せる)と見込む価格 −(リフォーム・解体などの費用)−(承諾料・地主との交渉・手続きの費用)−(売れるまで持っている間の地代などの費用)−(業者の利益と、地主の承諾が得られないリスクの分)
また、借地権と底地がまとまれば、ふつうの土地として扱えるため、業者は、底地をあわせて買い取れたときの価値なども考えて価格を出します。式のどの項目をどう見込むかが業者ごとに違うため、同じ借地権でも提示額に差が出るのです。

価格が上がる・下がる要因
同じ借地権でも、次のような点で価格は上下します。
- 契約の残りの期間
- 借地借家法の前の契約か後の契約か、普通借地か定期借地か
- 地代の水準と、滞納がないか
- 地主の意向と、地主と連絡が取りやすいか
- 建物の状態と、建て替えができる土地か(道路との接し方。「再建築不可の家は買取で売れる?」も参考に)
- 建物の登記が借地人名義になっているか、隣地との境界が分かるか
- 底地を買い取れる見込みがあるか
このように条件が多く、「相場の◯割」とは言えません。だからこそ、1社だけで決めず、複数の業者に査定を依頼して、提示額とその根拠を比べることが大切です。
相続した借地の家:売る前にやっておくこと
相続した借地の家は、名義・書類・地代の支払いを整えておくと、地主との話し合いも業者の査定もスムーズに進みます。
建物の相続登記と、地主への連絡
まず、建物の名義を相続人に変える相続登記をします。借地権を第三者に主張できる根拠の一つは借地上の建物の登記で(借地借家法第10条第1項)、名義が亡くなった親のままなら、売る前に相続人の名義に整えておく必要があります。
2024年4月1日から相続登記は義務になり、相続で取得したことを知った日から3年以内に登記しなければなりません。2024年4月1日より前に相続した不動産でまだ登記していない場合は、2027年3月31日までが期限です。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります(法務省「相続登記の申請義務化」)。
あわせて、地主には相続があったことと、今後の地代の支払いについて連絡しておきましょう。地代の滞納は、地主との関係を悪くするだけでなく、業者の査定でもマイナスに見られます。
そろえておきたい書類
- 土地の賃貸借契約書:見つからない場合は、地主に写しがないか確認します。地代の領収書や通帳の振込記録も、契約が続いてきたことを示す手がかりになります。
- 土地と建物の登記事項証明書:建物の名義、土地に地上権・賃借権の登記があるか、抵当権が残っていないかを確認します。
- 公図・地積測量図:借りている土地の範囲や、道路・隣地との位置関係が分かります。
- 建物の建築確認の記録:建てたときの記録(取れるかは自治体によります)。
- 固定資産税の納税通知書(建物)
- これまでに払った承諾料・更新料の記録
- 親が借地権や建物を取得したときの契約書・領収書:売った後の税金(取得費)に直結します。後の章で説明します。
契約書が見つからないと、期間や地代、特約の内容を確かめにくく、買い手や業者の評価にも影響します。内容が分からない場合は、業者や専門家に相談しながら確認を進めましょう。
建物を解体して返す前に

「住む予定もないし、建物を壊して土地を返せば終わりにできる」と考える方もいますが、先に解体するのはおすすめしません。建物を壊してしまうと、建物と借地権を売るという選択肢を自分で手放すことになり、期間満了のときの建物買取請求権(借地借家法第13条)の対象となる建物もなくなります。解体費用も自分で負担することになります。
解体して返すかどうかは、買取業者の査定を取り、地主と話したうえで判断しましょう。定期借地権の場合は、契約の定めに従います。なお、建て替えができない土地かどうかは「再建築不可の家は買取で売れる?」で確かめ方を説明しています。
借地権を売ったときの税金
借地権付きの家を売って利益(譲渡所得)が出た場合は、売った翌年に確定申告をして税金を納めます。借地権ならではの点もあるので、売る前に押さえておきましょう。
譲渡所得と取得費:親の契約書・領収書を探しておく
土地や建物を売ったときの譲渡所得は、売った金額から、取得費(買ったときの代金など)と譲渡費用(売るためにかかった費用)を差し引いて計算します(国税庁 No.3202)。税率などの特例の対象は「土地若しくは土地の上に存する権利」(土地等)と定められており(租税特別措置法第31条第1項)、国税庁の説明でも、土地には「借地権等の土地の上に存する権利」が含まれるとされています(国税庁 No.3105)。借地権を売った場合も、土地と同じように分離課税の譲渡所得として計算します。
相続した場合は、亡くなった親が借地権や建物を取得したときの代金をもとに取得費を計算し、取得した日も親の取得日をそのまま引き継ぎます(国税庁 No.3270)。建物は、年数に応じて価値が減った分を差し引きます(国税庁 No.3261)。
ここで大きく差が出るのが、親が借地権を取得したときの契約書や、払った代金の領収書があるかどうかです。土地を借りるときに借地権の対価として地主に払った権利金は、借地権の取得費に含まれます。契約を更新したときに払った更新料や、借地契約の手数料、借地権付きの建物を買ったときの代金のうち借地権の分なども同じです(所得税基本通達38-12)。相続した場合は、親が払ったこれらの金額をそのまま引き継ぎます(所得税法第60条第1項、国税庁 No.3270)。買ったときの金額が分からない場合は、売った金額の5%を取得費とする方法(概算取得費)を使うことになり(国税庁 No.3258)、この場合は相続のときの登記費用などを取得費に足せません(国税庁 No.3270)。取得費が小さくなる分、利益が大きく計算されて、税金が高くなることがあります。ほかに金額が分かる資料がないかは、税務署や税理士に確認してください。
相続税を納めた場合は、相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売れば、納めた相続税の一部を取得費に加えられる特例もあります(国税庁 No.3267)。
地主に払う承諾料は、売ったときの費用(譲渡費用)になる
借地権を売るときに地主の承諾をもらうために払った名義書換料などは、譲渡費用として、売った金額から差し引けます(国税庁 No.3255)。仲介業者に払う仲介手数料なども同じく譲渡費用です(国税庁 No.3255)。承諾料を払ったら、領収書や合意書を必ず保管しておきましょう。
税率と、空き家の3,000万円特別控除
税率は、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで変わります(国税庁 No.3208・No.3211)。
| 区分 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 長期(所有期間5年超) | 15% | 5% |
| 短期(所有期間5年以下) | 30% | 9% |
このほか、基準所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります。2027年1月1日以後に生じる所得からは防衛特別所得税の創設などの改正があるため、売る年の国税庁の情報を確認してください。
相続した場合の所有期間は、親が取得した日から数えます(国税庁 No.3270)。
親が1人で住んでいた家を相続して売った場合は、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける特例があります(国税庁 No.3306)。この特例の対象となる「敷地等」は、家の敷地として使われていた「土地またはその土地の上に存する権利」とされており(租税特別措置法第35条第5項、国税庁 No.3306)、借地権もこれに当たります(国税庁 No.3105)。つまり、借地の上の親の家を相続した場合も、家と借地権を売れば、ほかの要件を満たす限りこの特例を使えます。主な要件は、2027年12月31日までに売ること、家が昭和56年(1981年)5月31日以前に建てられたものであること、売却代金が1億円以下であること、家を残して売るなら一定の耐震基準を満たすこと(または取り壊してから売ること)などで、その家と土地を相続(遺贈を含む)で取得した相続人が3人以上の場合(2024年1月1日以後の売却)は1人あたり2,000万円までです。要件は細かく決められているので、国税庁 No.3306 の全文を確認してください。
借地の家では、買取業者が建物を残して使うのか、取り壊すのか、地主の承諾をどう得るのかによって、要件を満たせるかが変わる可能性があります。契約の前に、税務署や税理士に要件を満たせるかを確認してください。
借地権の買取業者の選び方:複数社に査定を依頼する
ここまで見てきたように、借地権の買取価格は、業者が想定する出口と、地主との交渉の見込みで変わります。業者選びが、手元に残る金額を大きく左右します。
1社だけで決めない理由
業者ごとに、地主との交渉の進め方、得意な出口(底地を買い取る、地主に売る、借地権付きで再販するなど)、得意な地域が違います。そのため、同じ借地権でも提示額に差が出ます。1社の提示額だけでは、それが高いのか安いのか判断できません。借地権を扱う業者に、複数社で査定を依頼して比べるのが基本です。
査定で比べること・確認すること
- 提示額の根拠:地主との交渉、底地の買取、裁判所の手続きなど、どんな出口を前提にした価格か。
- 地主の承諾が得られないときの扱い:契約の条件、白紙解約になるのか、違約金はかかるのか。
- 費用の負担:承諾料・測量・解体・残置物の撤去の費用は、どちらが負担するか。
- 売った後の責任:売った家に契約の内容に合わない不具合があった場合、売主は修理や代金の減額などを求められることがあります(契約不適合責任。民法第562条〜第564条)。免責の特約を付けるかを確認します。ただし、免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった不具合については責任を免れません(民法第572条)。
- お金と引き渡しの時期:手付金の額、代金を受け取る時期、引き渡しの時期。
- 宅地建物取引業の免許:不動産を業として売買するには免許が必要です(宅地建物取引業法第3条)。免許番号は、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で確認できます。
避けたい業者のサイン
- 「今日決めてくれれば高く買います」など、契約を急がせる
- 提示額の根拠を聞いても、はっきり説明しない
- 「地主の承諾はいらない」「地主とはこちらで話をつける」と言うだけで、承諾が得られないときの扱いを契約書で示さない
- 費用の負担や免責について、説明がない・あいまい
不安を感じたら、その場で決めず、ほかの業者の提示額や条件と比べてから判断してください。
よくある質問
借地権の家を相続しましたが、地主に承諾料(名義書換料)を払う必要はありますか?
相続によって借地権を引き継ぐことは、一般に譲渡には当たらず、地主の承諾は不要と解されています(相続の効力は民法第896条、承諾が必要な譲渡は民法第612条)。名義書換料を求められた場合に払う義務があるかは、契約の内容や事情によるため、弁護士などの専門家に確認してください。建物の相続登記と、地主への相続の連絡はしておきましょう。
契約書が見つかりません。それでも借地権は売れますか?
まずは地主に契約書の写しがないか確認しましょう。地代の領収書や振込の記録も、契約が続いてきたことを示す手がかりになります。ただ、期間や借地借家法の前の契約か後の契約か、特約の内容が分からないと、買い手や業者の評価に影響します。業者や専門家に相談しながら、内容を確かめてください。
地主に建物を買い取ってもらうことはできますか?
話し合いで地主が建物と借地権を買い取る形なら可能です。これとは別に、期間が満了して契約が更新されないときは、借地人が地主に建物などを時価で買い取るよう求める権利があります(借地借家法第13条)。使える場面が限られるため、弁護士に相談してください。
借地権付きの家は、住宅ローンを使って買ってもらえないのですか?
一律に使えないわけではありません。ただ、金融機関から地主の承諾書などを求められることがあり、使えるかどうかは金融機関の判断になります。そのため、仲介業者に依頼して売る場合、買い手が限られることがあります。
借地非訟の手続きは自分でできますか?
手続きは借地人が裁判所に申し立てる形で進みます。東京地方裁判所の案内では、代理人を付ける場合は弁護士に限られるとされています(東京地方裁判所「借地非訟事件手続の流れ」)。地主の介入権(借地借家法第19条第3項)や、承諾料に当たる支払いの判断もあるため、申し立てる前に弁護士に相談することをおすすめします。
