事故物件を売る方法|告知義務の範囲と、価格を下げすぎない売り方

事故物件を売る方法(告知義務の範囲と、価格を下げすぎない売り方)

この記事の結論

人が亡くなった家でも、老衰や病気などの自然死、転倒や誤嚥などの日常生活の中での不慮の死は、国土交通省のガイドラインでは原則として告げなくてもよいとされています。ただし、長い間気づかれずに特殊清掃などが行われた場合や、自死・事件などの場合は告げる対象になり得ます。売買には「何年たてば告げなくてよい」という目安は示されていません。

告げる内容は時期・場所・死因・特殊清掃などの有無で、亡くなった方の名前や亡くなった様子までは告げる必要がないとされています。売主は告知書(物件状況等報告書)に書いて伝えます。知りながら告げなかった事実は、契約不適合責任を負わない特約があっても責任を免れません(民法第572条)。

売り方は、仲介業者(不動産会社)に依頼して売るか、事故物件を扱う買取業者に売るかの2つです。告げる内容を書面にまとめ、両方に複数社で査定を依頼して比べましょう。解体は比べてから決めます(解体すれば告げなくてよくなる、とは言えません。「更地にするかは慎重に」の項で説明しています)。名義が親のままなら、先に相続登記が必要です。

家族を亡くしたうえに、その家をどうするかまで考えなければならない。気持ちの整理がつかないまま、片付けや手続きに追われている方も多いと思います。

人が亡くなった家は「事故物件」と呼ばれることがありますが、売るときに何を告げる必要があるかは、国のガイドラインである程度整理されています。告げる内容も、時期や場所、死因などに限られています。告げるべきことをきちんと告げたうえで売り方を比べれば、必要以上に価格を下げずに売れる可能性があります。

この記事では、不動産の売買仲介や買取に携わってきた立場から、告げる必要があるかの確かめ方、売主の責任、売り方の比べ方、価格を下げすぎないための準備を、順番に解説します。

まず確認:その家は「告げる必要がある」ケースか(国土交通省のガイドライン)

障子越しにやわらかな光が入る、家具のない畳の和室のイメージ
※画像はイメージです

人が亡くなった家を売るとき、最初に確かめたいのは「そもそも告げる必要があるのか」です。ここでは、国土交通省のガイドラインの言葉にできるだけ沿って整理します。

ガイドラインは、不動産会社が「人の死」をどう告げるかの基準

国土交通省は2021年(令和3年)10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました(国土交通省 報道発表資料)。これは、仲介業者や買取業者などの宅地建物取引業者(宅建業者)が、取引する不動産で過去に起きた人の死をどう調べ、どう告げるかの基準です。対象は住まいとして使う居住用の不動産で、オフィスなどは対象外とされています。

ガイドラインどおりに対応しなかったことだけで直ちに宅地建物取引業法違反になるものではない一方、ガイドラインに基づいて対応しても、業者が民事上の責任を免れるものではないとされています(国土交通省のガイドライン)。つまり、ガイドラインは業者の対応の目安で、売主として負う責任は、これとは別に民法で考える必要があります(次の章で説明します)。

原則として告げなくてよい:自然死・日常生活の中での不慮の死

ガイドラインでは、老衰や持病による病死などの自然死は、売買・賃貸のいずれでも、原則として告げなくてもよいとされています。自宅の階段からの転落、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で起きた不慮の事故による死も同じ扱いです(国土交通省のガイドライン)。

ただし、自然死や日常生活の中での不慮の死であっても、長期間にわたって人知れず放置されたことなどにより、いわゆる特殊清掃や大規模リフォームなどが行われた場合は、「原則として告げなくてよい」には当たらず、告げる対象になり得ます。ガイドラインでは、こうした場合は買主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる、とされています。ひとり暮らしの親が亡くなり、発見までに時間がかかった場合は、ここに当たるかを確かめておきましょう。なお、特殊清掃とは、孤独死などが起きた住まいで、元の状態に戻すために消臭・消毒や清掃を行うサービスのことです(ガイドラインの説明による)。

自死・事件など:売買では「何年たてば告げなくてよい」という目安は示されていない

自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死(例えば、自死や事件による死など)や、特殊清掃などが行われた場合で、買主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるときは、業者は買主に告げなければならないとされています(国土交通省のガイドライン)。

よく聞く「3年たてば告げなくてよい」という話は、賃貸の場合の目安です。賃貸では、こうした事案が発生(特殊清掃などの場合は発覚)してから概ね3年を経過した後は、原則として借主に告げなくてもよいとされています(事件性、周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案を除く)。一方で、売買については、このような期間の目安は示されていません。時間がたてば売買でも告げなくてよくなる、とは言えないので注意が必要です。

年数や死因に関わらず告げるとき:買主から聞かれた場合・社会的な影響が大きい場合

事案の発覚からどれだけ時間がたっていても、また死因に関わらず、買主から事案の有無を聞かれた場合や、社会的な影響の大きさから買主が知っておくべき特段の事情がある場合などは、告げる必要があるとされています(国土交通省のガイドライン)。自然死で原則として告げなくてよい場合でも、聞かれたら事実を答える、と考えておきましょう。

マンションの隣の部屋や、共用部分で亡くなった場合

マンションなどで、売る部屋の隣の住戸や、買主がふだんの生活で通常使わない共用部分で人が亡くなった場合は、売買・賃貸のいずれでも、原則として告げなくてもよいとされています。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案は別です(国土交通省のガイドライン)。

逆に、ふだんの生活で通常使う共用部分(ガイドラインは賃貸の項で、共用の玄関・エレベーター・廊下・階段などを例に挙げています)で起きた場合は、この「原則として告げなくてよい」には当たりません。その場合は、前の項目と同じく、買主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるかどうかで考えることになります。

人が亡くなった家、告げる必要があるかの図(国土交通省のガイドライン・売買の場合)。「原則として告げなくてよい」:自然死(老衰・病気など)、日常生活の中での不慮の死(転倒・誤嚥など)、マンションの隣の住戸や、通常使わない共用部分での死(※隣の住戸・共用部分でも、事件性・周知性・社会に与えた影響などが特に高い場合は別)。ただし、自然死・日常生活の中での不慮の死でも、長期間気づかれず、特殊清掃や大規模リフォームなどが行われた場合は、下の「告げる対象になり得る」へ。「告げる対象になり得る(売買では、期間の目安は示されていない)」:買主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、告げる。自死・事件など、特殊清掃などが行われた場合。「年数や死因に関わらず告げる」:買主から聞かれた場合、社会的な影響が大きく、買主が知っておくべき特段の事情がある場合。告げる内容:時期・場所・死因(不明ならその旨)・特殊清掃などの有無(特殊清掃などが行われた場合、時期は発覚の時期)。※名前や亡くなった様子までは告げなくてよい。賃貸では、概ね3年たてば原則として告げなくてよいとされる(事件性などが特に高い事案を除く。売買には、この目安は示されていない)。出典:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(2021年10月)より整理。

告げる内容は「時期・場所・死因・特殊清掃の有無」。名前や亡くなった様子までは告げなくてよい

告げる場合の内容は、事案の発生時期(特殊清掃などが行われた場合は発覚した時期)、場所、死因(分からない場合はその旨)、特殊清掃などが行われた場合はその旨、とされています(国土交通省のガイドライン)。

そのうえで、亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏に十分配慮し、氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様、発見状況などは告げる必要はないとされています。買主に事案を告げる際は、後のトラブルを防ぐために書面で伝えることが望ましいともされています。

「家族のことを、どこまで人に話さなければならないのか」と不安に思う方は多いのですが、告げる内容はこのように限られています。必要なことを正確に、それ以上は話さなくてよい、と考えてください。

売主として告げることと、告げなかったときの責任

ガイドラインは業者の対応の基準でした。では、家を売る売主は何をすればよく、告げなかったらどうなるのか。ここは、ガイドラインと民法を分けて考えると分かりやすくなります。

売主・業者・買主の関係と、それぞれのルールの図。上に「人の死の告知のガイドラインは仲介業者・買取業者の対応の基準。売主の責任は民法で考えます」。売主(相続した人など):知りながら告げなかった事実は、契約不適合責任を負わない特約(免責の特約)があっても、責任を免れない(民法)。矢印「告知書(物件状況等報告書)に書いて伝える」。仲介業者・買取業者:人の死の告知は、国土交通省のガイドラインに沿って対応。重要な事項を故意に告げない行為は禁止(宅建業法)。矢印「重要な事項は告げる」。買主:家が契約の内容に合わないとき、売主に、修理・代金の減額・損害賠償・解除を求められる場合がある(民法)。下に「買取業者に売る場合:買取業者が買主のときも、売主から正確に伝える(業者が再販するときに、買主へ告げるため)」。

売主は「告知書(物件状況等報告書)」に書いて、仲介業者・買取業者に伝える

ガイドラインでは、仲介業者は、売主に告知書(物件状況等報告書)その他の書面への記載を求めることで、通常の調査の義務を果たしたものとするとされています。人の死に関する事案を疑わせる特段の事情がなければ、業者が自分から調べる義務までは宅地建物取引業法上は認められず、近所への聞き込みやインターネットの調査をする義務も原則としてないと考えられる、とされています(国土交通省のガイドライン)。

つまり、事案を知っているのは売主で、売主が告知書に書くことが出発点になります。ガイドラインでは、業者は売主に対して、事案の存在を故意に告知しなかった場合などには民事上の責任を問われる可能性があることを、あらかじめ伝えることが望ましいともされています。

親と別に暮らしていて、亡くなった時期や死因が正確に分からないこともあると思います。ガイドラインでも死因は「不明である場合にはその旨」とされているので、分かる範囲を正直に書き、分からないことは分からないと伝えれば十分です。

告げなかった・事実と違うことを伝えた場合:契約不適合責任と、免責特約の限界

売った家に、契約の内容に合わない点があった場合、売主は買主から修理や代金の減額などを求められることがあります(契約不適合責任。民法第562条〜民法第564条)。人の死に関する事案を告げずに売った場合も、民事上の責任を問われる可能性がある、というのは前の項目で見たとおりです。

買取業者が買主の場合、この責任を負わない(免責)とする特約を付けるケースが多く、内容は契約しだいです。ただし、免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法第572条)。実務の感覚でいえば、事実を告げたうえで価格や条件に織り込んで売るほうが、売った後のトラブルを防ぎやすく、結果的に負担も小さくなりやすいと考えます。

机の上に置かれた不動産の書類と電卓。告げる内容を書面にまとめるイメージ
※画像はイメージです

仲介業者・買取業者には、重要な事項を故意に告げない行為が禁じられている

宅建業者は、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項について、故意に事実を告げず、または事実でないことを告げる行為を禁じられています(契約を勧誘する際など。宅地建物取引業法(宅建業法)第47条第1号ニ)。これは業者に対する決まりで、売主個人に直接かかるものではありません。ただ、売主が業者に伝えたことは、業者を通じて買主に伝わる前提で考えておきましょう。

買取業者に売る場合も同じです。買取業者は、買い取った家を再び売るときに、今度は売主として買主に告げる立場になります。そのため、売主から正確に伝えておくことが欠かせません。万が一、業者から「黙っておけば分からない」といった提案を受けても、応じないようにしてください。

人が亡くなった家の価格が下がりやすい理由と、「相場の◯割」と言えない理由

人が亡くなった家は、一般に価格が下がりやすいといわれます。なぜ下がるのか、どのくらい下がるのかを、業者側の考え方から見ていきます。

気にする買い手がいて、買い手の範囲が狭くなる

人の死に関する事案を気にして、購入をためらう人はいます。買い手が限られる分、価格や売れるまでの期間に影響が出ることがあります。一方で、どの程度気にするかは人によって大きく違います。ガイドラインでも、業者は買主の意向を事前に十分把握し、事案の存在を重要視する買主には特に慎重に対応することが望ましいとされています(国土交通省のガイドライン)。気にしない買い手に届けられるかどうかが、価格を左右するポイントのひとつです。

買取業者は、再販できる価格から費用と利益を引いて考える

買取業者は、買った後に売れる価格(事案を告げたうえでの価格)を見込み、そこから特殊清掃、リフォーム、家財の整理などにかかる費用と、自社の利益を引いて買取価格を考えます。考え方は、再建築不可の家の買取と同じです(「再建築不可の家は買取で売れる?」で、買取業者の価格の決まり方を説明しています)。業者によって再販の得意な地域や方法が違うため、同じ家でも買取価格に差が出ることがあります。

「相場の◯割」と言えない理由

価格への影響は、事案の内容(発見が遅れた自然死か、自死か、事件か)、経過した年数、建物の状態、立地、戸建てかマンションかによって変わり、公的な統計もありません。インターネットで見かける「相場の◯割引き」といった数字は、根拠が示されていないことも少なくありません。

実務の感覚でいえば、似たような事案でも、立地や建物の状態によって価格への影響はかなり違います。だからこそ、一般的な割合ではなく、複数社の査定で「その家の価格」を確かめることが大切です。

売り方は2つ:仲介業者に依頼して売るか、事故物件を扱う買取業者に売るか

人が亡くなった家の売り方は、大きく分けて、仲介業者に依頼して一般の買い手に売る方法と、事故物件を扱う買取業者に直接売る方法の2つです。違いを表にまとめます。

比べる点仲介業者(不動産会社)に依頼して売る事故物件を扱う買取業者に売る
買い手一般の個人など(告げたうえで探す)買取業者自身
価格の傾向買い手が見つかれば、買取業者に売るより高くなる可能性がある一般の買い手に売れる価格より低くなりやすい
売れるまでの期間買い手が見つかるまで時間がかかることがある条件が合えば比較的早く決まりやすい
仲介手数料かかる(宅建業法第46条にもとづく上限の範囲内)業者が直接買う場合はかからない
家財・特殊清掃・リフォーム売主が済ませておくと内覧の印象がよい家財が残ったまま、清掃の前でも買い取る業者もある
契約不適合責任負うのが原則(特約で範囲を決める)負わない(免責)特約のケースが多いが、契約しだい
近所への知られにくさ広告や内覧で売りに出していることが知られやすい広告を出さないため知られにくい
向いている家立地や建物の状態がよい、清掃や修繕が済んでいる、急がない清掃や家財の整理が済んでいない、遠方で管理できない、早く手放したい

表は横にスクロールできます。一般的な傾向で、物件や業者によって変わります。仲介手数料の上限は宅地建物取引業法第46条にもとづいて定められています。

晴れた日の住宅街に建つ、ベージュの外壁の2階建ての戸建てのイメージ
※画像はイメージです

仲介業者に依頼して売る:時間をかけても価格を重視したい場合

仲介業者に依頼して売る方法は、事案を告げたうえで、一般の買い手を探してもらう方法です。人の死を気にしない買い手に届けば、買取業者に売るより高く売れる可能性がありますが、買い手が見つかるまで時間がかかることがあります。広告や内覧によって、近所に売りに出していることが知られる点も考えておきましょう。

実務の感覚でいえば、人の死に関する事案のある家の取引に慣れた仲介業者と、そうでない業者がいます。相談するときは、告知書の書き方、広告での伝え方、買主への説明の仕方を具体的に聞いてみると、慣れているかどうかが分かりやすいと思います。売った後の契約不適合責任の範囲も、契約で決めておきます。

事故物件を扱う買取業者に売る:早く、手間をかけずに手放したい場合

買取業者に売る方法は、業者自身が買主になる方法です。価格は一般の買い手に売れる価格より低くなりやすい一方、買い手を探す期間がいらず、家財が残ったまま、特殊清掃の前でも買い取る業者もあります。広告を出さないため、近所に知られにくい点も特徴です。

比べるときは、価格の根拠(どの事情をどれだけ差し引いたか)、家財の整理や清掃の費用をどちらが負担するか、契約不適合責任の免責の範囲、代金の支払い時期を確認します。宅地建物取引業の免許があるか(宅地建物取引業法第3条)も確かめましょう。免許番号は、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で調べられます。1社だけで決めず、複数社に当たるのが基本です。

どちらにするか迷ったら、両方に査定を依頼して比べる

仲介業者の査定(売り出し価格の見込みと、売れるまでの期間)と、買取業者の買取価格を並べると、差額と、時間や手間の違いが具体的に見えてきます。仲介業者に依頼して一定期間売り出し、売れなければ買取業者への売却に切り替えるという進め方もあります。

価格を下げすぎないためにできること

価格は家の条件で決まる部分が大きいものの、売主が準備できることもあります。順番に見ていきます。

価格を下げすぎないための準備の順番の図。1 特殊清掃(必要な場合)・家財の整理(遺品整理)。※相続放棄を考えているなら、整理の前に専門家へ。2 告げる内容を書面にまとめる(時期・場所・死因・特殊清掃などの有無)。3 仲介業者と買取業者の両方に、複数社で査定を依頼。4 価格・期間・条件を比べて決める(リフォーム・解体は、比べてから)。下に「解体しても、告げなくてよくなるとは言えません」。

特殊清掃と家財の整理(遺品整理)は先に、リフォームは査定で比べてから

特殊清掃が必要な場合は、衛生面と建物の傷みを広げないためにも、まず専門の業者に相談しましょう。作業の内容が分かる報告書や見積書、作業後の写真を残しておくと、告げる内容の整理や、買い手・業者への説明に役立ちます。業者は複数から見積もりを取ると安心です。

家財の整理(遺品整理)は、残したいものや形見を家族で確かめてから進めます。相続放棄を考えている場合は、整理を始める前に専門家に相談してください(後の「相続した家を売る前に」で説明します)。

内装のリフォームは、かけた費用の分だけ価格が上がるとは限りません。買取業者は自社で工事をする前提で価格を出すため、先にリフォームしても買取価格にそのまま反映されないことがあります。仲介業者に依頼して売る場合の見込みと、買取業者の価格を比べてから決めましょう。片付けやリフォームをするかどうかを、売る相手に合わせて決める考え方は、「相続した実家が売れない理由と対処法」でも説明しています。

告げる内容を、書面で整理しておく

時期(分かる範囲で)、場所(どの部屋か)、死因(分からなければその旨)、特殊清掃や大規模なリフォームを行ったか。ガイドラインが告げる内容としている項目にそって、書面にまとめておきます。氏名や亡くなった様子まで書く必要はありません。

書面があると、業者ごとに説明がぶれず、査定の条件もそろうので比べやすくなります。書くのがつらい部分は、仲介業者に聞き取ってもらいながら一緒に作る方法もあります。

窓から日が差す、白い壁とフローリングの家具のない部屋のイメージ
※画像はイメージです

複数社に査定を依頼して、価格の根拠を比べる

査定は、仲介業者・買取業者とも複数社に依頼します。比べるのは金額だけでなく、事案の告げ方(広告での伝え方、買主への説明の仕方)、価格の根拠、費用の負担、契約不適合責任の範囲です。

事情は、査定の最初の段階で正直に伝えましょう。後から伝えると、価格の前提が変わって話がやり直しになったり、契約の段階でつまずいたりすることがあります。

更地にするかは慎重に:解体しても「告げなくてよくなる」とは言えない

「建物を解体して更地にすれば、告げなくてよいのでは」と考える方もいます。しかし、ガイドラインは、人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱いについて、「一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や不動産取引の実務の蓄積がなく、現時点では、本ガイドラインの対象としていない」としています(国土交通省のガイドライン)。つまり、解体すれば告げなくてよい、とされたのではなく、判断の基準がまだ示されていないということです。

過去の裁判例(いずれも2020年4月の民法改正より前の事案)を見ると、建物を取り壊した後の土地の売買でも、売主の責任が認められた例と、認められなかった例の両方があります。責任が認められた例には、次のようなものがあります(国土交通省 検討会 資料5)。

  • 大阪高裁平成18年12月19日判決:建物を取り壊した後の土地の売買。約8年7か月前に、取り壊す前の建物で起きた殺人事件について、売主の責任を認めました。
  • 東京地裁八王子支部平成12年8月31日判決:農山村の、建物を取り壊した後の土地の売買。約50年前に起きた、特異な殺人事件について、売主の責任を認めました。

一方で、解体した後の土地の売買で、売主の責任が否定された例もあります。解体したかどうかだけで決まるのではなく、死因(殺人事件など)、経過した年数、近所の人の記憶に残っているか、地域、買主の目的などを総合して判断されていると考えられ、事案ごとに結論が分かれています。何年たてば告げなくてよい、という目安はありません(約50年前の事件で責任を認めた例もあります)。ここで挙げた裁判例は、いずれも殺人事件の事案です。自然死や日常生活の中での不慮の死は、特殊清掃などが行われた場合を除き、原則として告げなくてもよいとされています(「原則として告げなくてよい:自然死・日常生活の中での不慮の死」で説明しています)。

買主から聞かれたら答える必要があることや、告げずに売ると後で責任を問われるおそれがあり、知りながら告げなかった事実は免責の特約があっても責任を免れないこと(民法第572条)を考えると、解体した後も、事案は告知書に書いて伝える前提で考えておくのが安全です。迷う場合は、告げる前提で仲介業者や弁護士に相談してください。

解体には費用もかかります。1月1日の時点で住宅が建っていない土地は住宅用地の特例(地方税法第349条の3の2)の対象にならないため、解体した後の1月1日の時点で住宅が建っていないと、その年度から土地の固定資産税が上がる可能性があります(賦課期日は地方税法第359条)。また、都市計画区域などの中で、建築基準法上の道路に2m以上接していない土地は、解体すると原則として新しく家を建てられません(建築基準法第43条第1項。確かめ方は「再建築不可の家は買取で売れる?」で説明しています)。先に解体せず、査定で「そのまま売る場合」と「更地にして売る場合」を比べてから決めましょう。

売り出しの時期:売買では「待てば告げなくてよい」にはならない

気持ちの整理や手続きのために、しばらく時間を置くのは自然なことです。ただ、売買では期間の目安が示されていないため、時間がたっても告げる対象であることは変わりません。待つ間も、固定資産税や管理の負担は続きます。いつ売るかは、こうした負担と、ご家族の気持ちの両方を考えて決めてください。空き家のまま持ち続けるときの税金・管理の負担と責任は、「相続した実家が売れない理由と対処法」で説明しています。

相続した家を売る前に:相続の手続きの要点

相続した家を売るときは、売る前に整えておく手続きがあります。ここでは要点だけをまとめます。個別の判断は、司法書士や弁護士などの専門家に確認してください。

名義が亡くなった親のままなら、先に相続登記

登記の名義が亡くなった親のままの家を売るには、先に相続人の名義にする相続登記が必要です(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。相続登記は2024年4月1日から義務になっており、相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません(不動産登記法第76条の2)。2024年4月1日より前に相続した不動産でまだ登記していない場合は、2027年3月31日までが期限です(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。

相続放棄を考えているなら、家財の整理や売却の前に専門家へ

相続放棄は、原則として自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に(民法第915条第1項)、家庭裁判所に申述して行います(民法第938条、裁判所「相続の放棄の申述」)。

注意したいのは、放棄する前に相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされ、放棄できなくなることがある点です(民法第921条)。家財の整理(遺品整理)がどこまで「処分」に当たるかは個別の事情によるため、相続放棄を少しでも考えているなら、片付けを始める前に弁護士や司法書士に相談してください。

兄弟で相続した(共有の)家は、売るのに全員の同意が必要

兄弟などで共有している家全体を売るには、共有者全員の同意が必要です(民法第251条も参照)。告げる内容や売り方も、家族で話し合ってそろえておきましょう。話がまとまらない場合は、「共有名義の家で、自分の持分だけを売る方法」も参考にしてください。

売れて利益が出た場合は、税金がかかることがある

家が売れて利益(譲渡所得)が出ると、税金がかかる場合があります。土地や建物を売ったときの譲渡所得は、ほかの所得と分けて計算します(国税庁 No.3202)。

状況別の選び方:人が亡くなった家をどう売るか

どの場合も、告げる内容を書面で整理すること、名義や共有者の同意など売る前提を整えること、複数社の査定で比べることが出発点です。

人が亡くなった家、どの売り方から始めるかの図。「相続の手続き(相続登記・共有者の同意)がまだ、または相続放棄を考えている?」はいなら、先に司法書士・弁護士に相談。いいえなら「自然死・日常生活の中での不慮の死で、特殊清掃なども行っていない?」はいなら、原則として告げなくてよい。仲介業者に依頼して売る、通常の売り方から(買主から聞かれた場合などは、事実を伝える)。いいえなら「早く手放したい・遠方で管理できない・近所に知られにくい方法がよい?」はいなら、事故物件を扱う買取業者に、複数社で査定を依頼(仲介業者の査定と比べる)。いいえなら、仲介業者に依頼して売る場合と、買取業者の価格の両方を比べる。下に「いずれの場合も:1 告げる内容の整理、2 相続登記・共有者の同意、3 複数社の査定」。

自然死・日常生活の中での不慮の死で、特殊清掃なども行っていない家:通常の売り方から

ガイドライン上は、原則として告げなくてもよいケースです(買主から聞かれた場合は別)。仲介業者に依頼して売る通常の売り方から考え、告知書にどう書くか迷う点は仲介業者に相談しましょう。

特殊清掃が行われた・自死や事件があった家:告げたうえで、両方に査定を依頼

告げる内容を書面にまとめ、仲介業者と事故物件を扱う買取業者の両方に査定を依頼して、価格と期間、条件を比べます。どちらが向いているかは、立地や建物の状態によって変わります。

早く手放したい・遠方で管理できない・近所に知られたくない:買取業者に複数社で

事故物件を扱う買取業者に、複数社で査定を依頼しましょう。家財の整理や清掃の前でも相談できる業者があります。価格の根拠と、費用の負担、免責の範囲を必ず比べてください。仲介業者の査定とも並べると、価格の差と時間の違いが分かります。

相続の手続きがまだ・相続放棄を迷っている:売る前に専門家へ

名義の変更や共有者の同意がまだなら、先に整えましょう。相続放棄を迷っている場合は、家財の整理や売却の話を進める前に、弁護士や司法書士に相談してください。

よくある質問

親が自宅で病気のため亡くなり、翌日に見つかりました。告げる必要はありますか?

ガイドラインでは、病死などの自然死は原則として告げなくてもよいとされています。長期間気づかれずに特殊清掃などが行われた場合は別の扱いです。ただし、どの程度で「長期間」に当たるかの基準は示されていないので、迷う場合は仲介業者に相談し、告知書には分かっている事実を書いておきましょう。買主から聞かれた場合は、事実を伝える必要があります(国土交通省のガイドライン)。

何年たてば、告げなくてよくなりますか?

賃貸では概ね3年が目安とされていますが、売買には期間の目安が示されていません。また、売買・賃貸とも、買主・借主から聞かれた場合は、経過した期間に関わらず告げる必要があります(国土交通省のガイドライン)。

建物を解体して更地にすれば、告げなくてよいですか?

そうとは言えません。ガイドラインは、建物を取り壊した後の土地の取引を現時点では対象としておらず、告げなくてよいとされたのではなく、基準が示されていない状態です。過去の裁判例では、取り壊した後の土地の売買でも売主の責任が認められた例と認められなかった例があり、事案ごとに判断されています(「更地にするかは慎重に」の項で説明しています)。知りながら告げなかった事実は、免責の特約があっても責任を免れません(民法第572条)。解体の費用や固定資産税への影響は「価格を下げすぎないためにできること」の章を参考にしてください。

買取業者に「契約不適合責任は免責」で売れば、告げなくても大丈夫ですか?

大丈夫とは言えません。免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法第572条)。業者にも、重要な事項を故意に告げない行為が禁じられています(宅建業法第47条第1号ニ)。正確に伝えたうえで、価格と条件を比べましょう。

近所の人に知られずに売ることはできますか?

買取業者に売る場合は、広告を出さないため知られにくくなります。仲介業者に依頼して売る場合も、広告の出し方を相談できることがあります。ただし、どちらの場合も、買主には告げるべきことを告げる必要があります。

この記事を書いた人

出口ガイド編集部 不動産業界20年以上。売買仲介・買取・収益物件・賃貸管理・ファンド運用に携わる。

宅地建物取引士公認 不動産コンサルティングマスター賃貸不動産経営管理士管理業務主任者
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