訳あり物件の買取価格はどう決まる?業者側の計算と、損しない業者の選び方

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この記事の結論

訳あり物件の買取価格は、「相場の何割」で決まるものではありません。業者が「買った後にどう売るか・どう使うか」から逆算して決めています。その見込み方は業者ごとに違うため、同じ家でも提示額に差が出ることがあります。

再建築不可・共有持分・借地権・人が亡くなった家など、事情によって価格を左右する要因も違います。まず仲介業者(不動産会社)に依頼して売る場合の価格の目安を知り、事情に合った買取業者に複数社で査定を依頼して、提示額ではなく、費用の負担や減額の条件まで含めた「手元に残る額」で比べましょう。

業者に売る契約には、クーリング・オフがありません(国民生活センター 2021年6月24日公表)。知っている事情は正直に伝え(民法第572条)、契約書の案は持ち帰って家族と読み、その場では契約しないことが大切です。

「訳あり物件の買取って、相場の何割くらいになるんですか」。相続した家に売りにくい事情があると分かったとき、まず気になるのはここだと思います。

ただ、実務の感覚でいえば、買取価格は割合で決まるものではありません。業者は、その家を「買った後にどうするか」から逆算して価格を出しています。だから同じ家でも業者によって提示額が違い、比べ方しだいで手元に残る額も変わってきます。

この記事では、不動産の売買仲介や買取に携わってきた立場から、訳あり物件の買取価格の決まり方、事情の種類ごとの違い、損をしない業者の選び方と比べ方、契約の注意を順番に解説します。

「訳あり物件」とは:買取業者が扱う主な6つの事情

古い住宅が並ぶ、住宅街の通りのイメージ
※画像はイメージです

「訳あり物件」は法律で定められた用語ではなく、仲介業者に依頼して一般の買い手に売るのが難しくなりやすい事情を抱えた物件を、まとめて呼ぶときに使われる言葉です。どこまでを含めるかは、業者やサイトによって違います。ここでは6つの事情に分けて整理します。自分の家がどれに当たるか、重なっていないかを確かめてみてください。

法律や権利の事情:再建築不可・共有持分・借地権

再建築不可:都市計画区域などの中では、原則として、建築基準法上の道路に2m以上接していない敷地には、建物を建て替えることができません(建築基準法第43条第1項)。都市計画区域などの外では、この接道の決まりはかかりません。本当に建て替えられないのかの確かめ方は「再建築不可の家の確かめ方と買取」で説明しています。

共有持分:兄弟などで共有している家です。自分の持分だけなら他の共有者の同意なしで売れますが、家全体を売るには共有者全員の同意が必要です(民法第251条も参照)。詳しくは「共有名義の家で、自分の持分だけを売る方法」をご覧ください。

借地権:地主から土地を借りて建てた家です。借地権が土地の賃借権であれば、建物と一緒に第三者に売るには、原則として地主の承諾が必要です(民法第612条第1項)。地主が承諾しない場合に、裁判所に承諾に代わる許可を求める手続きもあります(借地借家法第19条第1項)。詳しくは「借地権付きの家を売る方法」で説明しています。

心理的な事情:人が亡くなった家(事故物件)

自死や事件があった家、発見が遅れて特殊清掃などが行われた家などです。不動産会社が買主に何を告げるかは、国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」で整理されており、老衰や病気などの自然死、日常生活の中での不慮の死は、原則として告げなくてもよいとされています(長い間気づかれずに特殊清掃などが行われた場合などは別です)。告げる範囲と売り方は「人が亡くなった家(事故物件)を売る方法」で詳しく説明しています。

建物や場所の事情:築古・傷みの大きい家、家財が残った家、田舎や郊外の家と土地

雨漏り・シロアリ・傾きなど建物の傷みが大きい家、家財がたくさん残ったままの家、地方や郊外で買い手そのものが少ない家と土地も、売りにくい事情を抱えた物件に入ります。買取業者でも値段がつきにくい場合の手放し方は「田舎の空き家が売れない・値段がつかないときの手放し方」で詳しく説明しています。

事情は1つとは限りません。兄弟の共有で、しかも再建築不可。借地の上の古い家で、家財も残ったまま。こうした事情が重なっているほど、扱える業者は限られ、価格の見込みも業者ごとに分かれやすくなります(後の「事情が重なっている家」で説明します)。

訳あり物件の買取価格は「買った後の出口」から逆算して決まる

事情の種類は違っても、買取業者が価格を出すときの考え方の「型」は共通しています。型が分かると、業者ごとに提示額が違う理由も、比べるときに何を聞けばよいかも見えてきます。

業者は「買った後にどう売るか・どう使うか」を先に考える

買取業者は、家を買い取ったら、それをどう生かすか(出口)を先に考えます。出口には、たとえば次のようなものがあります。

  • 直して、住みたい人に売る
  • 直して貸す、または収益物件として投資家に売る
  • 権利関係を整えてから売る(共有者や地主との話をまとめる)
  • 隣地の所有者や関係者に売る
  • 建物を解体して、土地として使う・売る

どの出口を取れるかは、物件の事情と、業者の得意分野で決まります。そのうえで、価格の考え方を一言でいえば、「買った後に売れる(貸せる)と見込む価格」から、工事・家財の撤去などの費用、手続きの費用、持っている間の費用、業者の利益と売れないリスクの分を引いた残りです。式にすると、次のようになります。

買取価格 ≒ 買った後に売れる(貸せる)と見込む価格 −(工事・家財の撤去などの費用 + 手続きの費用 + 持っている間の費用)− 業者の利益と売れないリスクの分

式の一つひとつの項目の意味は「業者側の計算の詳しい例(再建築不可の家の場合)」で説明しています。

同じ家でも、業者によって提示額が違う理由

この計算の形は同じでも、項目ごとの「見込み方」は業者によって違います。差が出やすいのは次のような点です。

  • 得意な出口:直して売るのが得意な業者、貸すのが得意な業者、共有者や地主との権利の整理が得意な業者があり、見込む再販価格が変わります。
  • 工事の体制:工事を自社や提携先でできる業者は、工事費を低めに見込めることがあります。
  • 得意な地域:その地域の買い手や借り手をよく知っている業者ほど、売れる価格や期間を見込みやすくなります。
  • リスクの取り方:話し合いがまとまらない、思ったように売れない、売れるまで長く持つことになる、といったリスクをどれだけ大きく見込むかは、業者の方針で違います。

つまり、提示額の違いは、業者ごとの「得意・不得意」と「見込み方」の違いです。1社の提示額だけでは、それが高いのか安いのか判断できません。複数社に当てる意味は、ここにあります。

同じ家でも、業者によって提示額が違う理由の図。買取業者は「買った後の出口」から逆算して価格を考える。価格の考え方(どの業者も同じ型):買った後に売れる(貸せる)と見込む価格から、工事・家財の撤去などの費用、手続きの費用・持っている間の費用、業者の利益と、売れないリスクの分を引いたものが提示額。ただし、それぞれの見込み方は業者ごとに違う。同じ家を、複数の業者が査定すると、業者A(直して売るのが得意)、業者B(貸す・収益物件として売るのが得意)、業者C(権利の整理(共有者・地主との話)が得意)で提示額の高さが違う。※棒の高さの違いは一例。どの業者が高くなるかは、物件の事情によって変わる。工事を自社や提携先でできるか・得意な地域・リスクの取り方でも、見込みは変わる。1社の提示額だけでは、高いか安いか判断できない。

「相場の◯割」「路線価」「固定資産税の評価額」で判断しない

ネットでは「訳あり物件の買取は相場の◯割」といった数字を見かけますが、根拠が示されていないことも少なくありません。価格への影響は、事情の内容や物件の状態、業者の出口によって大きく変わり、公的な統計もありません。

税金の計算に使う評価額も、売買の価格の目安としては使いにくいものです。路線価や評価倍率表は、相続や贈与で取得した財産の相続税・贈与税を計算するための評価の基準です(国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」)。路線価図に載っている借地権割合も、相続税・贈与税の評価に使うものです(国税庁 No.4611。「借地権割合が相場ではない理由」も参考にしてください)。固定資産税の評価額は、総務大臣が定める固定資産評価基準によって市町村長が決める価格で(地方税法第388条第1項・地方税法第403条第1項)、固定資産税を計算する基になるものです(地方税法第349条第1項)。どれも、売主と買主の間で決まる売買の価格とは、決め方も目的も別です。

目安にしやすいのは、仲介業者の査定(仲介業者に依頼して売る場合の価格と、売れるまでの期間の見込み)です。周辺の取引価格は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」でも調べられます。そのうえで、買取業者の提示額との差を、「時間・手間・売った後の責任を業者に引き受けてもらう分」として比べると、判断しやすくなります。

足場と養生シートに覆われてリフォーム中の、古い2階建ての木造住宅のイメージ
※画像はイメージです

種類ごとに、価格を左右する要因は違う

同じ「訳あり」でも、業者が見込む出口と、価格を左右する要因は事情ごとに違います。主な違いを表にまとめます。

訳ありの事情業者が見込む主な出口価格を左右する主な要因売る前に売主ができること詳しくは
再建築不可直して貸す・売る/隣地と一体にする/土地として使う通路や間口の幅、建て替えできる可能性(建築基準法第42条第2項の道路(2項道路)のセットバック、建築基準法第43条第2項の認定・許可、隣地)、建物の傷み、引込管が他人の土地を通っていないか接道を役所で確かめる、書類をそろえる、先に解体しない再建築不可の家の確かめ方と買取
共有持分他の共有者に買ってもらう/残りの持分も買い集めて全体を売る/話がつかなければ共有物分割を求める共有者の人数や関係、連絡のつかない共有者がいるか、物件全体の価値、持分の割合他の共有者に、買取や全体の売却を打診してみる。業者には、残る共有者への対応方針を聞く持分だけを売ると安くなる理由(業者選びは「共有持分の買取業者の選び方」で説明しています)
借地権地主の承諾を得て売る/地主と協力して底地と一緒に売る/裁判所の手続き(借地非訟)地主の意向と承諾料、契約の種類や残りの期間、地代、建て替えできる土地か契約書・地代の領収書を探す、地主に連絡する借地権付きの家を売る方法
人が亡くなった家告げたうえで直して売る・貸す事案の内容と経過、特殊清掃や修繕の状態、立地告げる内容(時期・場所・死因・特殊清掃などの有無)を書面に整理する人が亡くなった家(事故物件)を売る方法
築古・傷みの大きい家/家財が残った家直して売る・貸す/解体して土地として売る雨漏り・シロアリ・傾き、工事の前提、家財の量、境界家財のうち残したいものを家族で確かめる、修繕は査定で比べてから相続した実家が売れないときの対処法
田舎・郊外の家と土地地元で直して売る・貸す/土地として使うその地域の買い手・借り手の有無、売れるまでの期間、管理の手間地元の業者にも当てる、値段がつかない場合の手放し方も調べる田舎の空き家の手放し方

表は横にスクロールできます。一般的な傾向で、物件や業者によって変わります。

どの事情でも共通する「価格が上がる・下がる」ポイント

業者が見込む費用とリスクを小さくできれば、その分、価格に反映される余地が生まれます。売主ができるのは次のようなことです。

  • 書類をそろえる:登記事項証明書、境界や測量の資料、親が買ったときの売買契約書など。
  • 権利関係をはっきりさせる:名義が亡くなった親のままなら、売るには先に相続登記が必要です(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。共有なら、他の共有者の意向を確かめておきます。
  • 家財の量を把握する:残したいものを家族で確かめ、残っている量を業者に伝えられるようにします。
  • 建物の傷みを正直に伝える:雨漏りやシロアリなど、知っている不具合は最初に伝えます(理由は後の契約の章で説明します)。

事情が重なっている家は、扱える業者が限られ、提示額の差も大きくなりやすい

兄弟の共有で、しかも再建築不可。借地の上の古い家で、家財も残ったまま。こうした家は、事情ごとに必要な手続きや見込む費用が増えるため、扱える業者が限られ、業者ごとの見込みも分かれやすくなります。

「どこに頼んでも同じだろう」と考えず、それぞれの事情に強い業者を混ぜて、複数社に当てるのがおすすめです。業者のタイプの選び方は、後の「損しない訳あり物件の買取業者の選び方」で説明します。

買取業者に売る前に:仲介業者に依頼して売る方法・手放す方法とも比べる

買取業者に売るのは選択肢の一つです。申し込む前に、ほかの道とも比べておきましょう。

仲介業者に依頼して売れる可能性がある訳あり物件もある

立地や建物の状態がよい、事情を理解して買う人がいる、といった場合は、訳ありでも仲介業者に依頼して一般の買い手に売れる可能性があります。その場合、価格は買取業者に売るより高くなる可能性がある一方、買い手が見つかるまで時間がかかることがあり、売った後の契約不適合責任を負うのが原則です(範囲は契約で決めます)。また、仲介業者を通して売れば、仲介手数料がかかります(宅地建物取引業法第46条にもとづく上限の範囲内)。買取業者に直接売る場合は、仲介手数料はかからないのが一般的です。

買取業者に売る場合は、早く、家財が残ったままでも売れる場合がある一方、価格は低くなりやすくなります。仲介業者の査定と買取業者の提示額を並べ、差額と、時間・手間・責任の違いを比べるのが基本です。比べ方は「相続した実家が売れないときの対処法」でも詳しく説明しています。

買取業者でも値段がつかないときは、手放す方法も比べる

買取業者でも値段がつかないこともあります。その場合は、0円での譲渡、自治体の空き家バンク、相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度などの方法があります。いずれも条件や費用があり、相続土地国庫帰属制度は申請しても承認されない場合があります(法務省「相続土地国庫帰属制度」)。詳しくは「田舎の空き家の手放し方」で説明しています。

損しない訳あり物件の買取業者の選び方

「訳あり物件の買取業者は、どこがおすすめですか」。よく聞かれる質問ですが、ここでは業者のランキングはしません。業者ごとに得意な事情・地域・出口が違い、同じ家でも提示額や対応が変わるからです。「どこがおすすめか」より「どう比べるか」を押さえるほうが、納得できる業者にたどり着きやすくなります。

訳ありの事情に合った業者に当てる:専門の業者・幅広く扱う業者・地元の業者

訳あり物件を扱う業者には、大きく分けて次のようなタイプがあります(一般的な分け方で、1社が複数のタイプを兼ねることもあります)。

  • 特定の事情を専門に扱う業者:共有持分だけ、人が亡くなった家だけ、など。その事情の権利の整理や再販に慣れていることが多いタイプです。
  • 訳あり物件を幅広く扱う業者:複数の事情が重なった家でも相談しやすいタイプです。
  • その地域の物件をよく知る地元の業者:地元の買い手や借り手、工事の業者を知っていて、地域の事情に合った出口を考えやすいタイプです。

実務の感覚でいえば、事情に合ったタイプを混ぜて、複数社に当てるのが近道です。事情が重なっている家ほど、それぞれの事情に強い業者を候補に入れましょう。申し込む前に、業者のサイトで、自分の家の事情と地域を扱っているかを確かめておくと、無駄なやり取りが減ります。

提示額ではなく「手元に残る額」で比べる

複数社の提示額が出そろうと、どうしても一番高い数字に目が行きます。ただ、提示額が高くても、最後に手元に残る額が多いとは限りません。提示額から差し引かれることがあるのは、主に次の3つです。

  • 売主が負担する費用:家財の撤去、測量、解体、相続登記、抵当権の抹消などの費用を、売主と業者のどちらが負担するか(契約によります)。
  • 契約の後に減額される条件:「調査の結果」などを理由に、契約の後で金額が変わる条件があるか、あるならどんな場合か。
  • 仲介手数料:買取業者との間に仲介業者が入る場合は、仲介手数料がかかります。

費用の負担と減額の条件は、査定の段階で書面やメールで確かめ、手元に残る額をそろえて比べましょう。なお、売れて利益が出た場合は、税金がかかる場合があります(国税庁 No.3202)。

実務の感覚でいえば、最初に高い額を示しておいて、契約の直前に、根拠の説明がないまま大きく下げる、という流れが起きることもあります。査定の前提(どんな出口・どんな工事を見込んだか)が詰められていないと、こうしたことが起きやすくなります。最初の提示額だけで候補を絞らないことが大切です。

「提示額」と「手元に残る額」は違うことを示す図。提示額だけで比べると、損をすることがある。左に提示額、右に手元に残る額。差し引かれることがあるもの:売主が負担する費用(家財の撤去・測量・解体・相続登記・抵当権の抹消など、契約による)、契約の後に減額される条件があるか(「調査の結果」など)、仲介業者を通す場合は仲介手数料。査定の段階で、費用の負担と減額の条件を書面やメールで確かめ、手元に残る額をそろえて比べる。※売れて利益が出た場合は、税金がかかる場合があります。

価格の根拠(出口・工事・期間)を説明できるか

提示額を受け取ったら、「買った後どうする前提ですか」「どんな工事や手続きを見込みましたか」「どれくらいの期間で売る(貸す)見込みですか」と聞いてみてください。提示額の違いは見込み方の違いなので、根拠を聞けば差の理由が分かり、比べやすくなります。

根拠を説明できないまま高い額を示す業者にも、低い額を示す業者にも注意が必要です。説明はメールなど記録に残る形でもらっておきましょう。

宅建業の免許と、行政処分の情報を確かめる

不動産の売買を業として行う宅地建物取引業者(宅建業者)には、宅地建物取引業(宅建業)の免許が必要です(宅地建物取引業法(宅建業法)第3条)。免許番号は国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で、行政処分の情報は「ネガティブ情報等検索サイト」(宅地建物取引業者)で調べられます。処分歴がないことだけで安心できるわけではありませんが、候補を絞る最初の確認になります。勧誘や契約のトラブルの防ぎ方は「共有持分の買取業者のトラブルと選び方」でも詳しく説明しています。

木のテーブルの上に並べた3枚の書類(間取り図などが描かれたもの)と、ペン・定規のイメージ
※画像はイメージです

「おすすめの業者」の探し方:比べる候補を集める

訳あり物件の買取を受け付ける窓口や、事情に合った専門の業者・地元の業者から、複数社を候補にしましょう。候補が集まったら、次の章の手順と比較表で比べます。

複数社に査定を依頼する進め方と、比べる表

ここまでの話を、5つの手順にまとめます。

複数社に査定を依頼して比べる5つのステップの図(訳ありの家を買取業者に売るか迷うときの進め方)。1 事情と書類を整理する(どの事情に当たるか・重なっていないか)。2 仲介業者の査定で、目安を知る(仲介業者に依頼して売る場合の価格と期間の目安)。3 事情に合った買取業者に、複数社で査定を依頼する(事情は最初から正直に伝える)。4 表に並べて、手元に残る額で比べる(提示額・根拠・費用の負担・減額の条件・契約条件)。5 契約書の案を持ち帰り、家族と読んでから決める。比べた結果、仲介業者に依頼して売る・手放す方法を選ぶ判断もあります。

査定を依頼する前にそろえる情報と書類

同じ情報を各社に渡すと、査定の前提がそろい、比べやすくなります。

  • 物件の事情(この記事の最初の章のどれに当たるか、重なっていないか)
  • 登記事項証明書
  • 固定資産税の課税明細書(または納税通知書)
  • 親が買ったときの売買契約書(売れた後の税金の計算でも使うことがあります)
  • 境界や測量の資料
  • 借地なら、土地の賃貸借契約書と地代の領収書
  • 共有なら、共有者の名前と、連絡や話し合いの状況
  • 人が亡くなった家なら、告げる内容のメモ(時期・場所・死因・特殊清掃などの有無)

事情は、最初から正直に伝えましょう。査定を依頼する前に、分かっている事情は全部伝えておくのが基本です。実務の感覚でいえば、提示額が出た後に新しい事情が分かると、それを理由に金額を下げる業者もあります。また、事情を隠しても、近所の人などから業者に伝わる可能性が高いものです。後から伝えると、価格の前提が変わって話がやり直しになったり、契約の段階でつまずいたりすることがあります。売った後の責任との関係は、次の章で説明します。

提示額を並べる比較表(PDF で印刷もできます)

各社の答えを、次のような表に書き込んで並べます。業者の名前は、A・B・Cの欄に書き入れてください。

確かめること業者A業者B業者C
提示額
前提にしている出口(どう売る・貸すか)
売主が負担する費用(家財の撤去・測量・解体・登記など)
契約の後に減額される条件
契約不適合責任の免責の範囲
手付の額と、手付で解除できる期間
違約金
代金の支払い時期と、引渡しの時期
手元に残る額の見込み
宅地建物取引業の免許番号

表は横にスクロールできます。「手元に残る額の見込み」は、提示額から売主が負担する費用などを引いて、自分で書き込みます。

この比較表を PDF でダウンロードする(印刷して使えます)

比べた結果、「今は売らない」「仲介業者に依頼して売る」判断もある

比べた結果、提示額や条件に納得できないこともあります。そのときは、仲介業者に依頼して売る、手放す方法を選ぶ、時期を待つ、といった道を選ぶのも一つの判断です。決断を急がせる業者には、応じないようにしましょう。

業者が買主になる契約で、売主として知っておきたいこと

買取業者に売る契約では、業者が「買主」、あなたが「売主」になります。家を買うときとは立場が逆になる点を、3つ押さえておきましょう。

業者に売る契約にはクーリング・オフがなく、宅建業法の手付・違約金の上限も当てはまらない

国民生活センターは「自宅を不動産業者に売却した場合、クーリング・オフはできません」と注意を呼びかけています(国民生活センター 2021年6月24日公表)。宅地建物取引業法のクーリング・オフ(宅地建物取引業法第37条の2)、違約金などの上限(宅地建物取引業法第38条)、手付の上限(宅地建物取引業法第39条)は、いずれも業者が「自ら売主となる」契約についての定めです。売主として業者に家を売る取引は、これらの定めの対象外です。

そのため、契約をやめるときの手付や違約金の扱いは、基本的に契約書の定めしだいです。なお、消費者(事業としてではなく契約する個人)と事業者の契約では、契約の解除に伴う違約金などの条項のうち、同じような契約の解除で事業者に生じる平均的な損害を超える部分は無効とされています(消費者契約法第9条第1項)。ただ、当てはまるかの判断は簡単ではないので、契約する前に確かめることが一番の予防策です。

事情は正直に伝える:免責の特約があっても、知りながら告げなかった事実は責任を免れない

売った家が契約の内容に合わない場合、売主は買主から、修理や代金の減額、損害賠償、契約の解除を求められることがあります(契約不適合責任。民法第562条〜民法第564条)。買取業者が買主の場合、この責任を負わない(免責)とする特約を付けるケースが多いものの、内容は契約しだいです。

そして、免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法第572条)。人が亡くなったこと、雨漏り、境界の争いなど、知っている事情は伝えたうえで、価格に織り込んでもらいましょう。そのほうが売った後のトラブルを防ぎやすく、結果的に負担も小さくなりやすいと考えます。

契約書類と印鑑・朱肉のイメージ
※画像はイメージです

契約書の案を持ち帰り、その場で契約しない

契約書は、署名する日に初めて見るのではなく、案の段階でもらって持ち帰り、家族と一緒に読みましょう。前の章の比較表の項目(費用の負担・減額の条件・免責の範囲・手付・違約金・代金の支払い時期)が、契約書でどう書かれているかを確かめます。宅建業者が契約の勧誘をする際に、正当な理由なく、契約するかどうかを判断するのに必要な時間を与えないことは禁止されています(宅地建物取引業法施行規則第16条の11第1号ロ)。持ち帰って読む時間を快く取ってくれるかどうかで、業者の姿勢もある程度見えてきます。

困ったときは、消費者ホットライン「188」で身近な消費生活センターなどを案内してもらえます(消費者庁「消費者ホットライン」)。業者の勧誘や対応の問題は、その業者に免許を出した行政庁にも相談できます(関東地方整備局「宅地建物取引業者からの悪質な勧誘電話等にご注意ください。」)。

状況別:訳あり物件の売り先の選び方

最後に、状況ごとに「どこから始めるか」を整理します。

状況別、訳あり物件の売り先の選び方の図。「相続の手続き(相続登記・共有者の話し合い)がまだ、または相続放棄を考えている?」はいなら、先に司法書士・弁護士に相談。いいえなら「事情は1つだけで、立地や建物の状態はよい?」はいなら、仲介業者の査定から始め、買取業者の提示額とも比べる。いいえ(事情が重なっている・早く手放したい・遠方で管理できない)なら、事情に合った買取業者にも、複数社で査定を依頼(仲介業者の査定と比べる)。査定を依頼したら「買取業者でも値段がつかない?」はいなら、手放す方法を比べる(0円での譲渡・相続土地国庫帰属制度など。条件や費用がある)。いずれの場合も、1 事情と書類の整理、2 仲介業者の査定で目安を知る、3 複数社の提示額を、手元に残る額で比べる。

相続の手続き(相続登記・共有者の話し合い)がまだ・相続放棄を考えている:売る前に専門家へ

名義が亡くなった親のままなら、先に相続登記が必要です(前の「どの事情でも共通する『価格が上がる・下がる』ポイント」で触れたとおりです)。相続放棄を考えているなら、家財の整理や売却の話を進める前に、弁護士や司法書士に相談してください。放棄する前に相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされ、放棄できなくなることがあります(民法第921条)。共有者との話がまとまらない場合は「共有名義の家で、自分の持分だけを売る方法」も参考にしてください。

事情が1つで、立地や建物の状態がよい:仲介業者の査定から始め、買取業者の提示額とも比べる

仲介業者に依頼して売れる可能性があります。仲介業者の査定と買取業者の提示額を並べ、差額と時間・手間・責任の違いで決めましょう。

事情が重なっている・早く手放したい・遠方で管理できない:事情に合った買取業者にも、複数社で査定を依頼

それぞれの事情に強い業者を混ぜて複数社に査定を依頼し、価格の根拠、費用の負担、減額の条件まで確かめて、手元に残る額で比べてください。

買取業者でも値段がつかない:手放す方法を比べる

売る以外の手放し方を比べます(「買取業者でも値段がつかないときは、手放す方法も比べる」で触れています)。

どの場合も、出発点は同じです。①事情と書類を整理する、②仲介業者の査定で目安を知る、③複数社の提示額を手元に残る額で比べる。この3つを押さえておけば、大きく損をすることは避けやすくなります。

よくある質問

訳あり物件の買取価格は、相場の何割くらいですか?

一概には言えません。業者は買った後の出口から逆算して価格を出すため、事情の内容、物件の状態、業者の得意分野によって大きく変わり、公的な統計もありません。仲介業者の査定で目安を知り、複数社の提示額を手元に残る額で比べるのが近道です(「種類ごとに、価格を左右する要因は違う」の章も参考にしてください)。

一番高い提示額を出した業者に決めてよいですか?

提示額だけで決めないことをおすすめします。売主が負担する費用、契約の後に減額される条件、免責の範囲、代金の支払い時期を確かめ、手元に残る額で比べてください。価格の根拠を説明できるかどうかも、大事な判断材料です。

雨漏りや、人が亡くなったことを伝えると安くなりそうです。黙っていてもよいですか?

おすすめしません。免責の特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法第572条)。詳しくは「業者が買主になる契約で、売主として知っておきたいこと」で説明しています。

買取業者と契約した後に、やめることはできますか?

業者に売る契約には、クーリング・オフがありません(国民生活センター 2021年6月24日公表)。やめられるか、やめるときにいくらかかるかは、契約書の手付や違約金の定めしだいです。売主が手付で解除するには、相手が契約の履行に着手する前に、手付の倍額を現実に提供する必要があります(民法第557条第1項)。契約書で確かめることは、共有持分の買取業者の記事(「共有持分の買取業者のトラブルと選び方」)でも説明しています。持分以外の売却にも共通する内容です。困ったときは、消費者ホットライン「188」(消費者庁)や弁護士に相談してください。

査定を依頼したら、売らなければいけませんか?

一般に、査定を依頼しただけで売る義務が生じるものではありません。条件は依頼先ごとに確かめてください。契約を急がせる業者には応じないようにしましょう(宅地建物取引業法施行規則第16条の11第1号ロ。「契約書の案を持ち帰り、その場で契約しない」で説明しています)。

この記事を書いた人

出口ガイド編集部 不動産業界20年以上。売買仲介・買取・収益物件・賃貸管理・ファンド運用に携わる。

宅地建物取引士公認 不動産コンサルティングマスター賃貸不動産経営管理士管理業務主任者
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